1.ポートフォリオについて
___小川さんは今、「版画専攻卒業生のポートフォリオ」を作っているとお聞きしたのですが、そもそも「版画専攻卒業生のポートフォリオ」とはどの様なものなのでしょうか?
「卒業生がみんなで作る作品集」みたいなもので、中にみんなの作品が入っています。版画なので作品を複数作れるから、その年の卒業する人数分の作品を箱に収めてみんなで交換します。卒業制作と同時並行で作っていて、こんな風にみんなで交換するものを作るということはすごく版画特有のことかなと思っています。今、私はまだ卒業制作の大きい作品は作ってないのですが、2018年バージョンのポートフォリオを作っているところです。
___毎年ポートフォリオにはテーマが決まっているそうですね
はい。毎年テーマが決まっていて、今年は「みんなが寝てる間に見た夢」を紙に書いて箱の中に入れてくじ引きをして、お互いの夢を当たった文章から想像して作るというのがテーマです。
私は「坂から転げ落ちる」みたいな文章が当たって、それは踏まえつつ自分のしたいようにしたのがこんな感じです。(下記写真参照)
年によってテーマはバラバラで、多分卒業生が7人だったからテーマが「一週間」だった年もあります。各曜日を7人で分担しています。
2.個人制作について
___個人での卒業制作はどのようなものを作るか構想などは練っていますか?
ちょっとあって、まだ下絵が完成してるわけではないんですけれど。
最近は漢字からその成り立ちや象形文字を自分なりに解釈して絵にするみたいなことにハマっています。(上記写真参照)
この作品もその一環なんですけれど「阿弥陀」と書いてあります。「阿弥陀」という漢字の成り立ちを調べて、例えば「阿」という漢字に含まれるこざとへんは山とかが曲がりくねってる様子で、右側の可は口を開いてる様子なので山と開いてる口を合体させました。
自分なりに漢字を自分の想像も入れながらまた絵に戻すことに面白さを感じていて、制作展もこの様なテーマでを作るつもりです。
___小川さんの作品はモチーフが独特ですが、どういったところから発想を得ているんですか?
色などが毒々しいものが好きなので、あえて組み合わせたら気持ち悪そうなものを組み合わせてる節があります。この作品も「山」と「人の口」とか、突然あったら「なんやそれ!」ってなるものが組み合わさっています。自分の中で思う可愛いとか毒々しいものがあって、そんないろんなモチーフを1枚の絵の中にギュって収めて混沌とした画面にするのが好きです。
___作品を作るときに気をつけていることや、悩んだことはありますか?
私の絵はキャラクターっぽいものが多くて、どちらかというとアートというよりも商業向けに寄ったところがあるんですけど、私は別に京芸の中にそういう人がいてもいいと思うし、そういう人が肩身が狭い思いをするのは嫌だなと思っていて。自分のいいと思うものは貫きたいなと。自分の好きな言葉に「自分の感受性くらい自分で守れ」(茨城のり子『自分の感受性くらい』より)というのがあって、それが私の中で人生の格言というか、座右の銘というか...。なので、自分の感受性は自分で守りたいし、いいなと思うものは臆することなく表現していけたらなと思います。
___京芸で版画をしようと思ったきっかけはなんですか?元から版画専攻志望でしたか?
本当は最初は油画専攻に進もうと思っていました。京芸の独特なシステムで、1回生後期と2回生前期は日本画以外の美術科だったら実技を二種類取れるんです。私は版画→油画って取ろうとしていたんですが、最初に選択した版画がすごく楽しくってそのまま居着いちゃったって感じです。版画をするって高校の時とかは全く思っていませんでした。
版画専攻の中でも、版画とって彫刻とって版画に戻ってきた子とか、油画とって版画に戻って来た子が結構いて、自分の入学当初と違う専攻にいけたり新たな発見ができるのはすごく京芸のいいところだなと思うし、その制度がなかったら今の私はいなかったと思っています。
3.制作展について
___昨年度から作品展の会場が京都市立美術館から学内になりましたが、どうですか?
学内になって、確かに少し窮屈にはなりましたが普段の作業場所にプレス機などを置いたまま展示したりすることで版画専攻なりの空間づくりはできたと思います。版画専攻ってどういうことをしてるのかわからない人ってたぶん多くて、リトグラフや銅版とか名前は聞いたことがあってもどんな道具を使ってるのかって実際見たことある人って少ないと思うし、学外の方にも作っている環境を丸ごと見せれるので、私は制作展が学内で行えてよかったんじゃないかなと思っていますね。
___今年の展示場所はもう決まっていますか?
シルクスクリーンの作業場所の向かいにある銅版とリトグラフの工房、総基礎Bの教室を主に使います。
___なんだか銅版の工房は独特の匂いがしますね
油性インクの匂いですかね。リトグラフの部屋もまた違った匂いがすると思います。
4.シルクスクリーンについて(普段の制作について)
___版画専攻はその中でも版画の種類によって分かれているとお聞きしました。
京芸の版画専攻は木版・シルクスクリーン・銅版・リトグラフと4種類に分かれています。中でもシルクスクリーンは版を作ってから刷るのをほぼ丸一日でできるのが特徴で、そのスピードの早さが私が好きなところでもあります。
___実際に刷るところを見せていただいたのですが、この作業の時に気をつけていることはありますか?
気をつけていることは、やっぱり多色の作品になると版がずれるということの無いようにとても気をつけています。
あと、今は喋るので着けていませんが普段は防毒マスクをつけるんですよ。なんか今刷ってる時は特に問題はないんですが、油性のインクを使っているので拭いたりする時に有機溶剤を使うので防毒マスクは必需品です。あと、掃除をする時に手につくのも良くないので手袋も使いますね。この2つの道具はシルクスクリーンの人特有かなと思います。
シルクスクリーンの、手早くできるけど唯一手間のかかるところとしては、色を変える時にめちゃくちゃ版の掃除をしないといけないというのがあります。なので、かなり版を作るところまでは早いんですが、刷る作業が長いですね。
5.普段の制作について
___制作をするときの「おとも」などはありますか?
めっちゃ豆乳飲みます(笑)無調整より調整が好きです!作品を作ってる最中にイヤホンをしている同級生も多いけれど私はあんまり音楽とか聴かないので、お供となったらこいつくらいしか(笑)刷る時ってずっと立ち仕事だから連続でやると腰が疲れるのでちょいちょい休憩する時に飲みますね。
___制作する時はいつもエプロンをつけているんですか?
大体はそうですね。つなぎもあるんですが最近はエプロンの方が動きやすいなと思って、インクがポタポタ落ちたりするので丈の長いエプロンを使っています。
___道具もいろいろなものがあるんですね。インクの缶は個人で購入されるんですか?
共有のものもありますが、自分で個人的に買うものもあります。私とかは蛍光ピンクとかそういうちょっと特殊なやつとか使うので...。油画だけじゃなくて版画にもメディウムがあって、それも缶で使いますね。
___メディウムはどんなときに使うんですか?
インクを透けさせたりツヤを出す時に使います。色を重ねていく時に、例えば水色を普通のインクで刷ってその上からメディウムを入れたインクで黄色を刷ると重なった部分が透けてから緑色になります。
___なるほど。1作品には完成までどれくらい時間がかかりますか?
サイズにはよりますが、私は大きい作品だったら日数で言うと構想も含めて一週間以上から二週間弱かかります。
やっぱり刷るのは学校でしかできない作業なので、1週間くらいは1つの作品にかかりきりになります。ポートフォリオの作品ならサイズが小さいことと色数も少ないので、構想を練ってフィルムを作って製版して刷るのまで1日2日とかです。私は絵を思いつくスパンは早い方で、下絵にすごい時間かける人もいます。
___本日はお話ありがとうございました。
ありがとうございました!